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創業・立ち上げ

職業安定法の基礎とコンプライアンス

一発退場(免許取り消し)を防ぐ、最低限の防波堤。

編集部編集部
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Executive Summary

  • 結論1:職業安定法を知らない経営者は、無免許運転と同じである
  • 結論2:「名義貸し」と「おとり求人」は一発で免許が飛ぶ
  • 結論3:法律を守ることは、コストではなく「信頼への投資」

人材紹介業(有料職業紹介事業)は、国の許可制ビジネスです。 許可番号(13-ユ-〇〇〇〇)を持っているということは、「人身売買などの危険がある労働市場において、国から適正運用を信託されている」 ということです。

しかし、創業期(Stage-1)の経営者は売上に必死で、コンプライアンスを軽視しがちです。 「バレなきゃいいだろう」「みんなやっている」という甘えが、ある日突然の 「業務停止命令」「免許取り消し」 を招き、会社を一瞬で倒産させます。 本記事では、これだけは絶対に守るべき「職業安定法(職安法)」のレッドライン(禁止事項)を解説します。

許可取り消しリスク:絶対に踏んではいけない地雷

労働局の監査で発覚した場合、即座に致命的な処分(許可取り消し)になるのが、以下の2点です。

違反項目内容よくある事例・言い訳処分
名義貸し他人(無許可の個人や法人)に自分の許可番号を使わせて営業させること「業務委託のパートナーに、うちの名刺を持たせて営業させていた(実態は独立して動いていた)」免許取消
虚偽求人(おとり求人)実態のない好条件求人で集客すること「採用終了したが、集客効果が高いので掲載し続けた」「実際は年収500万だが、800万と書いた」業務停止〜取消
スカウトの目的外利用ビズリーチ等のDB情報を、自社採用や別商材の営業に使う「候補者情報を名簿業者に売った」「保険の勧誘に使った」業務停止〜取消

特に 「名義貸し」 は、創業期に業務委託のエージェントを増やす過程で、知らずにやってしまうケースが多発しています。 「指揮命令系統がない」「場所も独立している」状態で活動させると、それは「名義貸し」と認定されます。業務委託を使う場合は、法的な要件(職業紹介責任者の指揮下にあること等)を完璧に満たす必要があります。

Warning

Warning

「おとり求人」への厳罰化 近年、ハローワークや求人媒体への監視が強化されています。 「年収1000万〜」で釣っておきながら、面談で「あれは経験者限定でして、あなたにはこちら(年収400万)を紹介します」と誘導する手口(Bait and Switch)は、完全な違法行為です。 悪質な場合、社名が公表され、業界から永久追放されます。

職業紹介責任者が最低限知っておくべき法的義務

許可を取る時に講習を受けた「職業紹介責任者」は、以下の義務を負っています。名前だけの飾りではありません。

  1. 求人管理簿・求職管理簿の整備
    • いつ、誰を、どこに紹介し、どうなったか。全てのデータを3年間保存する義務があります(Excelやシステムで可)。
  2. 個人情報の適正管理
    • 鍵のかかるキャビネット、パスワードのかかるPC。これらが守られていないと監査で指摘されます。
  3. 業務の運営規定の掲示
    • 手数料表や返金規定を、事業所内の見える場所(または自社HP)に必ず掲示・公開しなければなりません。

労働局の定期監査で見られるポイント

事業開始から数年経つと、必ず労働局の 「定期監査(実地調査)」 が入ります。 突然電話がかかってきて、「来週行きます」と言われます。その時に慌てないよう、以下の3つを常に整理しておきましょう。

  1. 管理簿の整合性: 提出した事業報告書(年1回)の数字と、現場の管理簿の数字が合っているか。
  2. 手数料契約書: 顧客と交わした基本契約書に、違法な条項(労働基準法違反の天引きなど)がないか。
  3. 労働条件通知書: 紹介した候補者に対し、入社前に「労働条件通知書(15条書面)」が確実に交付されているか。
Note

Note

コンプライアンスは「武器」になる 「うちは法令遵守を徹底しています」とHPで宣言することは、求職者からの信頼獲得に繋がります。 特にハイクラス層は、リテラシーの低いエージェント(法律無視のブローカー)を嫌います。クリーンさをアピールし、選ばれる理由にしてください。

まず明日やるべきこと:3ステップアクション

Step 1: 自社求人の棚卸し(クリーニング) 現在掲載中の求人全てをチェックし、「既に充足している求人」「条件が盛られている求人」を即時削除・修正する。

Step 2: 業務委託契約書の見直し フリーランスのエージェントを使っている場合、契約書が「名義貸し」構成になっていないか、弁護士にチェックしてもらう。

Step 3: 管理簿のバックアップ確認 いざ監査が来ても「データが消えました」と言い訳できないよう、法定帳簿(管理簿)が確実に保存されているか確認する。

職業安定法は、私たちを縛る鎖ではなく、「プロフェッショナルの証明書」 です。 このラインを守れないプレイヤーは、遅かれ早かれ市場から退場させられます。自分と社員を守るために、リーガルマインドを持ってください。

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