労働者性と業務委託のリスク管理
フリーランス活用時に注意すべき「偽装請負」のリスク。労働者性の判断基準と適法な業務委託の考え方。
この記事のポイント
- 結論1:労働基準監督署の調査で「偽装請負」と認定された場合、未払い残業代・社会保険料の遡及支払いが発生する可能性がある
- 結論2:「労働者性」の判断基準は、契約書の名称ではなく実態。指揮命令・時間拘束・専属性がポイント
- 結論3:適法な業務委託を維持するには、「成果物での支払い」「複数クライアント」「自己裁量」の3要件が重要とされている
Disclaimer本記事はプロモーションを含む場合があります。 本記事は情報提供のみを目的としており、税務・法務・労務等の専門的助言を構成するものではありません。 記載内容は執筆時点の情報に基づく筆者の見解であり、正確性・完全性を保証しません。 具体的な判断・実行にあたっては、必ず税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
Important
本記事は2026年1月時点の法令に基づいて執筆されています。労働法は改正される可能性があるため、具体的な判断の際は必ず社会保険労務士・弁護士にご確認ください。
「うちはフリーランスに業務委託しているから、残業代は関係ない」
この認識には リスクがあります。契約書に「業務委託契約」と書いてあっても、実態が「雇用」と判断されれば、 「労働者」 として扱われる可能性があります。その場合、未払い残業代、社会保険料、有給休暇などを 遡って支払う義務 が発生することがあります。
編集部が労務トラブルを経験した人材紹介会社を調査したところ、「業務委託の労働者性を問われたケース」は一定数見られました。そのうち複数社が、労働基準監督署から是正勧告を受けています。
本記事では、創業期の経営者が 「労働者性」 のリスクを理解し、適法な業務委託を維持するための考え方を解説します。
Note
偽装請負とは? 契約上は業務委託(請負・準委任)としながら、実態は雇用と同様に指揮命令して働かせること。労働基準法、職業安定法などに違反し、罰則の対象となる可能性があります。
指揮命令系統があると「雇用」とみなされるリスク
労働者性の判断基準
「労働者」かどうかは、 契約書の名称ではなく、実態 で判断されるとされています。厚生労働省は、以下の基準を示しています。
労働者性の判断基準(主要項目):
| 判断要素 | 「労働者」と判断される傾向 | 「事業者」と判断される傾向 |
|---|---|---|
| 指揮命令 | 業務の具体的指示がある | 成果物の仕様のみ指定 |
| 時間拘束 | 勤務時間が決められている | 自由に時間を決められる |
| 場所拘束 | 出社義務がある | 働く場所を選べる |
| 専属性 | 他の仕事ができない | 複数のクライアントがある |
| 報酬形態 | 時給・月給で支払われる | 成果物単位で支払われる |
| 機材提供 | 会社がPCなどを提供 | 自分で機材を用意 |
| 代替性 | 本人以外は認められない | 他者への再委託が可能 |
「偽装請負」のリスク
業務委託契約でありながら、実態が「雇用」と判断された場合のリスクです。
| リスク | 内容 | 金額影響 |
|---|---|---|
| 未払い残業代 | 過去2年分の残業代支払い | 数十万円〜数百万円/人 |
| 社会保険料 | 過去2年分の保険料支払い | 数十万円〜数百万円/人 |
| 有給休暇 | 未付与分の賃金支払い | 数万円〜数十万円/人 |
| 労災 | 労災保険の遡及加入・保険料 | 状況による |
| 是正勧告 | 労働基準監督署からの指導 | 信用への影響 |
| 罰則 | 労基法違反の可能性 | 法的リスク |
人材紹介業で起こりやすいパターン
人材紹介業で「偽装請負」が疑われやすいパターンです。
| パターン | 問題点 |
|---|---|
| フリーランスのCAに「毎日出社」を求める | 時間・場所の拘束 |
| 「1日○件スカウト」を指示する | 具体的な業務指示 |
| 他社の仕事をしないことを条件にする | 専属性の強制 |
| 「時給○円」で報酬を決める | 時給制=労働者的 |
| 社内メンバーと同じSlackに参加させる | 指揮命令系統への組み込み |
Warning
「業務委託契約書」は免罪符ではない 契約書に「業務委託」と明記していても、実態が雇用と判断されれば、契約書が無効とされる可能性があります。 「実態」 が重要です。
Tip
今日やること : 現在フリーランスに業務委託している場合、「勤務時間を指定しているか」「出社を求めているか」「他社の仕事を禁止しているか」を確認してください。該当する場合、偽装請負のリスクがある可能性があります。
業務委託契約書に盛り込むべき独立性の要件
適法な業務委託の3要件
業務委託を適法に維持するためには、以下の3要件が重要とされています。
| 要件 | 内容 | 具体的な対応 |
|---|---|---|
| 成果物基準 | 時間ではなく成果で報酬を決める | 「○件の成約で○万円」 |
| 複数クライアント | 他の仕事ができる状態を保つ | 専属禁止条項を入れない |
| 自己裁量 | 業務の進め方を委託先が決める | 具体的指示を出さない |
契約書に盛り込むべき条項
業務委託契約書に盛り込むべき「独立性を示す条項」の例です。
①業務内容の特定(成果物基準)
第○条(業務内容)
乙は、甲の求めに応じ、以下の業務を行う。
・人材紹介に係る候補者のスカウト業務
・候補者との面談および求人紹介業務
なお、上記業務の遂行方法、作業時間および作業場所は、乙が自己の裁量により
決定するものとする。
②報酬(成果物単位)
第○条(報酬)
甲は乙に対し、以下の基準に基づき報酬を支払う。
・成約1件につき:○万円
・面談設定1件につき:○円
報酬は、成果物の引き渡しをもって支払い義務が発生する。
③他社業務の許容(非専属)
第○条(他社業務)
乙は、本契約の履行に支障のない範囲において、甲以外の第三者から業務を
受託することができる。甲は、これを制限してはならない。
④指揮命令の否定
第○条(独立性)
乙は、本契約に基づく業務を、自己の責任と裁量において遂行する。
甲は乙に対し、業務遂行の方法、時間配分その他の詳細について指揮命令を
行ってはならない。
契約書だけでなく「運用」も重要
契約書に適切な条項があっても、 運用が伴わなければ十分な効果が得られない可能性があります 。
| 契約書の記載 | 実態(NG例) | 実態(OK例) |
|---|---|---|
| 「業務時間は自由」 | 毎朝9時に朝会参加を求める | 成果報告は週1回でOK |
| 「場所は自由」 | 基本的に出社を求める | リモート完結 |
| 「他社業務OK」 | 実際には専属を求める | 複数クライアントを推奨 |
| 「成果物で支払い」 | 稼働時間を管理している | 成果のみで評価 |
Important
「実態」を定期的に確認する 契約開始時は適法でも、徐々に実態が「雇用」に近づくケースがあります。定期的に「指揮命令をしていないか」「専属になっていないか」を確認することをお勧めします。
労働基準監督署の調査で指摘されやすいポイント
労働基準監督署の調査とは
労働基準監督署(労基署)は、労働基準法の遵守状況を調査する機関です。調査は以下のパターンで行われます。
| 調査種類 | きっかけ | 頻度 |
|---|---|---|
| 定期監督 | 計画的な調査 | 業種・規模により |
| 申告監督 | 労働者からの申告 | 申告があった時 |
| 災害時監督 | 労災発生時 | 労災発生時 |
人材紹介業への調査: 人材紹介業は「業務委託の偽装」が疑われやすい業種とされています。特に、フリーランスのCAやRAを多く活用している企業は、調査対象になりやすい傾向があると言われています。
調査で指摘されやすいポイント
労基署の調査で、業務委託の労働者性について指摘されやすいポイントです。
| 指摘ポイント | 確認される書類・情報 |
|---|---|
| 勤怠管理 | 出退勤の記録、タイムカード |
| 業務指示 | 業務指示のメール、チャット |
| 専属性 | 他のクライアントの有無 |
| 報酬形態 | 請求書、支払い記録 |
| 機材提供 | PC、携帯電話の貸与状況 |
| 会議参加 | 社内会議への参加状況 |
調査への対応方法
労基署の調査に対応するための準備です。
①書類の整備
- 業務委託契約書(最新版)
- 発注書・検収書
- 請求書・支払い記録
- 業務報告書
②運用の見直し
- 指揮命令と見なされる行為がないか確認
- 勤怠管理をしていないか確認
- 社内会議への参加を求めていないか確認
③想定質問への回答準備
| 想定質問 | 適切な回答 |
|---|---|
| 「業務時間は決まっていますか?」 | 「成果物の納期のみ定め、時間は自由です」 |
| 「毎日出社していますか?」 | 「働く場所は委託先が自由に決めます」 |
| 「他の仕事をしていますか?」 | 「複数のクライアントと契約しています」 |
| 「業務の指示はどうしていますか?」 | 「成果物の仕様のみ伝え、方法は任せています」 |
Note
是正勧告への対応 是正勧告を受けた場合、指摘事項を速やかに改善し、「是正報告書」を提出する必要があります。対応を怠ると、更なる手続きに進む可能性があります。
Tip
今日やること : フリーランスとの業務委託契約書と、実際の運用状況を照らし合わせてください。 「契約書と実態が異なる」 箇所があれば、運用を改善するか、契約形態を見直すことをお勧めします。
まず明日やるべきこと:業務委託の適法性チェック
業務委託のリスクを管理するために、以下の3ステップを検討してください。
□ Step 1 : 現在の業務委託先(フリーランス)をリスト化し、労働者性をチェックする
- 全ての業務委託先をリスト化
- 各委託先について「指揮命令」「時間拘束」「専属性」をチェック
- リスクがあると思われるものをマーク
□ Step 2 : 業務委託契約書を見直し、独立性を示す条項を追加する
- 「業務時間・場所は委託先の裁量」を明記
- 「他社業務を制限しない」ことを明記
- 「成果物単位での報酬」に変更
□ Step 3 : 運用を見直し、「雇用」と判断されない体制を構築する
- 勤怠管理をしていないか確認(していれば見直し)
- 社内会議への参加を求めていないか確認(求めていれば任意参加に)
- 具体的な業務指示を出していないか確認(出していれば成果物指定のみに)
Warning
「今まで問題なかった」は安心材料にならない 偽装請負は、労働者からの申告、労基署の調査、M&Aのデューデリジェンスなど、様々なきっかけで発覚する可能性があります。
創業期(Stage-1)は、リソース不足から フリーランスを活用 することが多い時期です。「業務委託」という契約形態を選ぶなら、 「実態も業務委託」 になっているか確認することが重要です。具体的な法的判断については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。