データ資産のバリュエーション
保有する履歴書データ1件あたりに値段をつけるロジック。
Executive Summary
- 結論1:ただのリストは二束三文。価値があるのは「反応する」リストだけ
- 結論2:データ資産価値 = (有効リスト数 × 反応率 × LTV) で算出せよ
- 結論3:M&A価格を引き上げるための「データクレンジング」戦略
M&Aにおいて、のれん代(営業権)の根拠となる最大の資産は何でしょう? 人材紹介会社の場合、それはブランドでもオフィスでもなく、「独自の候補者データベース(タレントプール)」 です。
しかし、単に「1万人の名刺情報があります」と言っても、買い手は評価してくれません。その中身が古びたゴミデータであれば、価値はゼロ(むしろ管理コストがかかる負債)だからです。 本記事では、自社の保有データに「値段」をつけ、M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)を最大化するためのロジック解説します。
「ゴミデータ」と「資産データ」の決定的な違い
買い手企業がデューデリジェンス(資産査定)をする際、データベースのどこを見ているのでしょうか。比較表で整理します。
| 評価項目 | 価値のないデータ(ゴミ) | 価値のあるデータ(資産) |
|---|---|---|
| 情報の鮮度 | 最終更新が3年前 | 直近6ヶ月以内に更新/接触あり |
| 連絡可能性 | メールが届かない(Unknown) | LINEやSNSで繋がっている |
| 属性情報 | 名前と会社名だけ | 転職意欲・希望年収・辞退理由 |
| 許諾状況 | オプトインが不明確(個人情報リスク) | プライバシーポリシー同意取得済み |
| 再現性 | 属人的なメモ書き | 構造化データ(検索可能) |
要するに、「明日メールを送って、何人が返信してくれるか?」 という「稼働性」こそが資産価値の本質です。 死んだリストが10万件ある会社より、生きたリストが1,000件ある会社の方が高く売れます。
データ資産価値の算出ロジック
では、具体的にどうやって値段をつけるのか。説得力のある計算式(ロジック)を用意する必要があります。
データ資産価値 = 有効リスト数 × 想定転換率(CVR) × 限界利益単価
例えば、あなたの会社が「SaaS営業職」のリストを5,000件持っているとします。
- 有効リスト数: 5,000件のうち、メルマガ開封履歴があり、連絡がつく人が2,000人。
- 想定転換率: その2,000人にアプローチした場合、過去の実績から1%(20人)が決まると仮定。
- 限界利益単価: 1決定あたりの平均粗利が200万円。
算出: 2,000人 × 1% × 200万円 = 4,000万円
このロジックを提示できれば、通常のEBITDAマルチプルに加えて、「+4,000万円」 の上乗せ評価を勝ち取れる可能性があります。これがデータバリュエーションです。
買い手企業が欲しがる「構造化データ」の形式
M&A後の統合(PMI)を見据えたとき、買い手が最も嫌がるのが「データの形式がバラバラで移行できない」ことです。 今のうちから、主要M&Aプレイヤー(大手人材会社)が好むフォーマットにデータを整えておくことが、イグジット準備になります。
必須の3大クレンジング項目
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企業名・学校名の正規化
- NG: 「リクルート」「(株)リクルート」「リクルートHD」
- OK: 法人番号に基づく正式名称に統一する。これができていないと、名寄せができません。
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職種のタグ付け
- フリーテキストではなく、ビズリーチやLinkedInの標準職種マスタに合わせてコード化しておく。
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フェーズ管理の徹底
- 「面談済」「書類通過」「内定辞退」などのステータスが、全ての日付入りで記録されていること。
Tip
「休眠候補者」の掘り起こしキャンペーン 売却活動に入る半年前から、休眠リストに対して「キャリアアンケート」などの名目で一斉送信を行い、データをアップデート(最新化)してください。 「最近、1,000名のアクティブ化に成功しました」という実績は、買い手にとって垂涎の的です。
まず明日やるべきこと:3ステップアクション
□ Step 1: DBの健康診断 全データ件数のうち、「メルアドが生きている件数」「直近1年以内に接触がある件数」を集計し、今の「資産稼働率」を把握する。
□ Step 2: 名寄せと正規化の開始 表記揺れ(半角・全角の混在など)を修正するルールを決め、アシスタントやAIを使ってデータを掃除し始める。
□ Step 3: バリュエーション試算表の作成 上記の計算式に当てはめて、「うちのDBには理論上〇〇円の価値がある」という資料を1枚作っておく。
人材紹介業は、究極的には「情報の裁定取引(アービトラージ)」です。 右から左へ情報を流すフロービジネスから、情報をストックして利回りを生む「資産運用ビジネス」へと脱皮すること。それが高値売却への唯一の道です。