表明保証(Representations and Warranties)
売却後に訴えられないよう、リスク範囲を限定する技術。M&A契約における法的防衛の実践。
この記事のポイント
- 結論1:表明保証違反による損害賠償請求は、M&A後2〜3年以内に約28%の案件で発生
- 結論2:ディスクロージャー別紙(Exceptional Schedules)で例外を明記することで、リスクを大幅に軽減
- 結論3:サンドバッギング条項の有無で、買い手からの請求リスクが変わる。契約交渉の重要ポイント
Disclaimer本記事はプロモーションを含む場合があります。 本記事は情報提供のみを目的としており、税務・法務・労務等の専門的助言を構成するものではありません。 記載内容は執筆時点の情報に基づく筆者の見解であり、正確性・完全性を保証しません。 具体的な判断・実行にあたっては、必ず税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
「表明保証違反で訴えられた」
M&Aで会社を売却した経営者から、この話を聞くことがあります。M&Aの契約書には 「表明保証条項」 が含まれており、売り手は会社の状態について様々な 「保証」 を行います。この保証に違反していた場合、売却後でも 損害賠償請求 を受ける可能性があります。
編集部がM&Aアドバイザー 8名 にヒアリングしたところ、 「表明保証違反に関するトラブル」 は、M&A後2〜3年以内に 約28% の案件で発生しているとのことでした。
本記事では、M&Aを視野に入れた経営者が 表明保証 を理解し、売却後のリスクを最小化するための方法を解説します。
Note
表明保証(Representations and Warranties)とは? M&Aの契約において、売り手が買い手に対し、会社の状態(財務、法務、税務等)について「事実であること」を表明し、その正確性を保証することです。
契約書で「嘘偽りがないこと」を誓約する法的重み
表明保証の目的
表明保証には、以下の目的があります。
売り手側の目的:
- 買い手に対し、会社の状態を正確に伝える
- 誠実な取引であることを示す
買い手側の目的:
- デューデリジェンスで発見できなかったリスクをカバー
- 問題があった場合の救済手段を確保
典型的な表明保証事項
M&Aの契約書で売り手が表明保証する典型的な事項です。
| カテゴリ | 表明保証事項 |
|---|---|
| 会社の存在 | 適法に設立・存続していること |
| 権限 | 契約締結の権限があること |
| 株式 | 株式が適法に発行されていること |
| 財務諸表 | 財務諸表が正確であること |
| 税務 | 税金を適切に申告・納付していること |
| 法令遵守 | 法令を遵守していること |
| 許認可 | 必要な許認可を取得していること |
| 契約 | 重要な契約が有効であること |
| 訴訟 | 重大な訴訟がないこと |
| 労務 | 労働法を遵守していること |
| 知的財産 | 知的財産権を適法に保有していること |
| 環境 | 環境法を遵守していること |
| 反社排除 | 反社会的勢力との関係がないこと |
表明保証違反の効果
表明保証に違反していた場合の効果です。
| 効果 | 内容 |
|---|---|
| 損害賠償請求 | 買い手から売り手に対する賠償請求 |
| 価格調整 | 売買価格の減額 |
| 補償(Indemnity) | 特定の損害に対する補償 |
| 契約解除 | 重大な違反の場合、契約自体を解除 |
損害賠償の上限: 多くの契約では、表明保証違反による損害賠償に 上限(Cap) が設定されます。
| 上限の設定例 | 内容 |
|---|---|
| 売買価格の10〜30% | 一般的な上限 |
| 売買価格の100% | 重大な違反の場合 |
| エスクロー金額 | 預けた金額を上限 |
Warning
「知らなかった」は通用しない 表明保証は、売り手が「知らなかった」としても責任を負う場合があります。 「知っていた」「知りえた」 事実を隠すことは、重大な違反となります。
Tip
今日やること : M&Aを検討している場合、自社の状態について 「表明保証で問題になりそうな事項」 をリストアップしてください。事前に把握しておくことで、交渉に備えられます。
表明保証違反による損害賠償請求(サンドバッギング)のリスク
サンドバッギングとは
サンドバッギング(Sandbagging) とは、買い手がデューデリジェンスで問題を認識していたにもかかわらず、M&A完了後に表明保証違反を主張して損害賠償を請求することです。
サンドバッギングの問題:
- 買い手は問題を知っていたのに、価格交渉で反映せず
- M&A完了後に、表明保証違反として請求
- 売り手にとって「だまし討ち」と感じる
サンドバッギング条項
サンドバッギングへの対応として、契約書に以下の条項が規定されることがあります。
| 条項 | 内容 | 有利な側 |
|---|---|---|
| プロサンドバッギング | 買い手が知っていても請求可能 | 買い手有利 |
| アンチサンドバッギング | 買い手が知っていたら請求不可 | 売り手有利 |
| 規定なし | 一般法理に委ねる | 解釈による |
売り手としての対応:
- 可能であれば 「アンチサンドバッギング条項」 を入れる
- 少なくとも「知っていた場合は請求不可」と交渉
表明保証保険
近年、 表明保証保険(Representations and Warranties Insurance) が普及しています。
表明保証保険とは:
- 表明保証違反による損害を保険でカバー
- 買い手が加入するケースが多い
- 保険料は売買価格の1〜3%程度
メリット:
| 売り手のメリット | 買い手のメリット |
|---|---|
| 請求リスクの軽減 | 売り手からの回収不能リスクを回避 |
| エスクローの減額 | 売り手との関係悪化を防止 |
| クリーンエグジット | デューデリジェンスの補完 |
Note
表明保証保険は「万能薬」ではない 表明保証保険は、「知っていた」事実や、故意・詐欺による違反はカバーしません。あくまで「知らなかった」リスクへの対応です。
ディスクロージャー別紙(Exceptional Schedules)の重要性
ディスクロージャー別紙とは
ディスクロージャー別紙(Disclosure Schedules / Exceptional Schedules) とは、表明保証の「例外」を記載した別紙のことです。
目的:
- 表明保証の範囲を限定
- 既知の問題を開示し、責任を免れる
- 「言った/言わない」の紛争を防止
例: 表明保証で「重大な訴訟はない」と記載する場合、進行中の訴訟をディスクロージャー別紙に記載すれば、その訴訟については責任を免れる。
ディスクロージャー別紙の作成
ディスクロージャー別紙の作成方法です。
Step 1: 表明保証事項の確認
- 契約書の全ての表明保証事項を確認
- 各事項について「例外」がないか検討
Step 2: 例外のリストアップ
| 表明保証事項 | 例外事項 |
|---|---|
| 訴訟がないこと | ○○訴訟(詳細を記載) |
| 未払い税金がないこと | 税務調査中の案件(詳細を記載) |
| 許認可を取得していること | ○○許可の更新手続き中 |
Step 3: 詳細の記載
- 例外事項の詳細を具体的に記載
- 金額、期間、リスクの程度を明記
- 関連書類を添付
ディスクロージャー別紙作成のポイント
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 網羅的に記載 | 漏れがあると、後で責任を問われる |
| 具体的に記載 | 曖昧な記載は効力が認められない |
| 最新情報を記載 | 古い情報は無効になる可能性 |
| 弁護士のレビュー | 法的に有効か確認 |
開示の誠実さ
ディスクロージャー別紙は、 「誠実に開示する」 姿勢が重要です。
誠実な開示のメリット:
- 買い手からの信頼獲得
- 売却後のトラブル防止
- 「だまされた」という感情の回避
不誠実な開示のリスク:
- 表明保証違反の請求
- 詐欺として扱われる可能性
- 評判の悪化
Important
「隠す」より「開示する」 問題を隠すより、開示して交渉する方が、長期的にはリスクが低いです。開示した上で価格交渉を行い、合意した金額で取引を完了させる方が、後のトラブルを防げます。
Tip
今日やること : 自社について 「開示すべき例外事項」 をリストアップしてください。訴訟、税務、労務、許認可、契約など、各カテゴリで検討します。
まず明日やるべきこと:表明保証への備え
表明保証への備えとして、以下の3ステップを実行してください。
□ Step 1 : 自社の状態を棚卸しし、「表明保証で問題になりそうな事項」をリストアップする
- 財務、税務、法務、労務、許認可の各カテゴリで検討
- 進行中の訴訟、税務調査、労使紛争等をリスト化
- 「知っている問題」 を全て把握
□ Step 2 : リストアップした問題について、解消可能か検討する
- M&A前に解消できる問題は解消
- 解消が困難な問題は、ディスクロージャー別紙で開示
- 弁護士に相談 し、リスクを評価
□ Step 3 : M&A契約のドラフト段階で、表明保証条項の内容を確認する
- 表明保証の範囲が過度に広くないか
- 損害賠償の上限(Cap)が設定されているか
- アンチサンドバッギング条項 を入れられるか
- 表明保証保険の活用を検討
Warning
「契約書は読まない」は最大の失敗 M&A契約書は数十ページに及びますが、表明保証条項は 最も重要な部分 です。弁護士任せにせず、経営者自身が内容を理解してください。
Tip
出口戦略(Stage-4)において、 表明保証 は売却後のリスクを左右する重要な要素です。「売ったら終わり」ではなく、「売った後も責任が残る」ことを理解してください。誠実な開示と、適切な契約交渉で、クリーンな出口を目指しましょう。