法務デューデリジェンスの論点一覧
買収側弁護士が必ず突いてくる「アキレス腱」を予習する。
Executive Summary
- 結論1:M&Aの成否を決めるのは、ビジネスではなく「法務リスク」である
- 結論2:COC条項(チェンジ・オブ・コントロール)は命取りになる
- 結論3:偶発債務(隠れリスク)の洗い出しが、価格交渉の最終防衛線
M&Aの最終局面。基本合意(LOI)までは順調だったのに、最後のデューデリジェンス(買収監査) で破談になるケースが後を絶ちません。 その最大の原因が「法務リスク」です。
買い手側の弁護士(四大事務所など)は、顕微鏡のような精度であなたの会社の契約書や規約をチェックし、あら探しをします。 「この契約書には不備がある」「将来訴訟されるリスクがある」。これらの指摘は、買収価格の減額、あるいは交渉決裂(破談)に直結します。 本記事では、M&A前に必ずチェックしておくべき「法務のアキレス腱」を公開します。
契約書管理の不備:チェンジ・オブ・コントロール条項
最も見落としがちで、かつ致命的なのが 「COC(Change of Control)条項」 です。 これは、取引基本契約書の中に書かれている「株主が変わったら、契約を解除できる(または事前承諾が必要)」という条文です。
| 項目 | 売り手の認識(甘い) | 買い手の認識(厳しい) |
|---|---|---|
| COC条項 | 「そんな条文、誰も気にしてないでしょ」 | 「重要顧客との契約が切れるリスクがあるなら、買収できない」 |
| 契約書原本 | 「どこかのファイルにあるはず」 | 「原本がない=契約が存在しないのと同じ」 |
| 反社条項 | 「一応入ってると思う」 | 「最新の暴排条例に対応していないとコンプラ違反になる」 |
もし、売上の3割を占める大口顧客との契約書にCOC条項があり、「買収には事前承諾が必要」となっていたらどうなるでしょうか? M&Aの情報を公にする前に、その顧客にお伺いを立てなければならず、秘密保持の観点から極めて難しいハンドリングを迫られます。
潜在的な訴訟リスクと偶発債務の洗い出し
財務諸表(BS)には載っていない借金。それが 「偶発債務」 です。 「今は問題になっていないが、将来裁判になって金を払う可能性があるもの」を指します。
- 元社員とのトラブル
- 「解雇した社員から不当解雇で訴えられるかもしれない」
- 「退職勧奨のやり取りを録音されている」
- 情報漏洩リスク
- 過去に候補者の個人情報を誤送信したことがあるが、うやむやにしている。
- 著作権侵害
- 自社メディアの記事や画像が、他サイトからの無断転載である疑いがある。
これらは、買収後に発覚すれば買い手にとって大損害です。 隠そうとしても、弁護士は「議事録」や「内容証明郵便の履歴」から必ず嗅ぎつけます。隠して発覚すれば「表明保証違反」で損害賠償請求されます。 「悪い情報ほど先に開示する(ディスクロージャー)」 ことが、信頼を守る唯一の道です。
Warning
個人情報保護法違反の代償 人材紹介業において、個人情報は商品そのものです。ここが杜撰だと、企業価値はゼロになります。 「プライバシーポリシーが古い(改正法に対応していない)」「オプトアウトの導線がない」といった初歩的なミスで、数億円の減額を食らわないよう注意してください。
まず明日やるべきこと:3ステップアクション
□ Step 1: 重要契約書のリスト化 売上上位10社と、家賃契約、銀行取引約定書を引っ張り出し、「COC条項」の有無をExcelにまとめる。
□ Step 2: 係争中・係争懸念案件の棚卸し 弁護士に相談している案件、内容証明が届いている案件、労働局から是正勧告を受けている案件を全てリストアップし、対応状況を整理する。
□ Step 3: 法務デューデリジェンスの予行演習 M&Aアドバイザーや顧問弁護士に依頼し、「もし今、買収監査が入ったらどこが指摘されるか?」をシミュレーションしてもらう。
法務リスクは、虫歯と同じです。放置しても自然には治らず、痛み(損害)は時間とともに増大します。 M&Aという晴れ舞台で笑うために、今すぐ治療(修正)を始めてください。