シナジー効果の定量的説明
買い手にとって「1+1=3」になるロジックを提案する。
Executive Summary
- 結論1:シナジーには「売上シナジー」と「コストシナジー」がある
- 結論2:「相性が良い」等の定性的な話は、一切評価されない
- 結論3:異業種(建設・医療など)への出口戦略を描く
M&Aにおいて、あなたの会社を高値で売るための魔法の言葉。それが 「シナジー(Synergy)」 です。 しかし、多くの売り手企業は「御社とは企業文化が合います」「ビジョンに共感しました」といったポエムを語り、買い手を失望させます。
買い手が見ているのは「投資対効果(ROI)」だけです。 「当社を買えば、御社のP/Lがこれだけ改善します」という数値を突きつけられる経営者だけが、提示価格(バリュエーション)を引き上げることができます。 本記事では、シナジー効果を因数分解し、定量的にプレゼンする方法を解説します。
買い手の戦略地図における自社の「パズルのピース」
シナジーを説明するためには、相手(買い手)のビジネスモデルを完璧に理解している必要があります。 買い手が何に困っていて、どのピースが欠けているのか。それを埋めるのがあなたの会社です。
| シナジーの種類 | 内容 | 定量化のロジック(例) |
|---|---|---|
| 売上シナジー | クロスセルによる単価アップ、顧客数増加 | 「御社の既存顧客1,000社に、当社のサービスを売れば、初年度で売上3億円アップします」 |
| コストシナジー | 重複機能の統合、コスト削減 | 「管理部門を統合すれば、年間5,000万円の販管費が浮きます」 |
| 時間シナジー | 立ち上げ時間の短縮 | 「自社でこのDBを作るには3年かかりますが、買収なら明日手に入ります(時間の買収)」 |
| 採用シナジー | 採用コストの削減 | 「当社の人材紹介ノウハウを使えば、御社の年間採用費1億円を半分にできます」 |
特にM&Aでは、コストシナジーは「確実性が高い」と評価されやすく、売上シナジーは「不確実(絵に描いた餅)」と見られがち です。 だからこそ、売上シナジーの根拠をどれだけ固められるかが勝負になります。
売上シナジーとコストシナジーを具体的な数字で示す
ケーススタディ:建設業界への売却
あなたが「建設業界専門の人材紹介会社」だとします。買い手候補として「大手建設会社」に提案する場合、どのようなシナジーを提示できるでしょうか。
1. 採用コストの削減(コストシナジー)
- 現状: 買い手は年間50人を採用し、エージェントに1人200万円(計1億円)を払っている。
- 買収後: あなたの会社が内製エージェントとして機能すれば、この1億円が外部流出しなくなる。
- インパクト: 年間1億円の利益改善
2. 施工管理技士の派遣による売上増(売上シナジー)
- 現状: 買い手は案件があるのに、監督不足で受注を断っている(機会損失)。
- 買収後: あなたのDBから毎月3名の有資格者を供給できる。
- インパクト: 1人あたり年間売上5,000万円 × 36人 = 18億円の受注増
ここまで具体的な数字が出れば、買い手は「数億円で買収しても、1年で元が取れる」と判断し、即決します。
Tip
異業種への提案(ピボット) 同業(人材紹介会社)への売却は、単なる「規模の拡大」にしかならず、マルチプルが伸びにくい傾向があります。 一方、「人材不足が深刻な事業会社(建設、医療、介護、IT)」への売却は、彼らにとって死活問題(採用)を解決する手段となるため、戦略的プレミアム(高値) がつきやすいです。
まず明日やるべきこと:3ステップアクション
□ Step 1: 買い手候補リスト(ロングリスト)の作成 同業他社だけでなく、「自社の紹介領域でビジネスをしている事業会社」をリストアップする。
□ Step 2: 買い手の決算書(IR資料)を読む 上場企業なら「中期経営計画」を読み、「何に投資しようとしているか」「何が課題か(人手不足など)」を特定する。
□ Step 3: 「勝手にシナジー試算表」を作る Excelで、「もし彼らが当社を〇億円で買収したら、3年でどれだけ回収できるか」を勝手にシミュレーションしてみる。この資料が、将来のM&Aアドバイザーへの最強のインプットになります。
シナジーとは、偶然生まれるものではなく、売り手が論理的に 「捏造(デザイン)」 するものです。 「1+1」を「3」にも「10」にもするロジックを磨いてください。