Expert Insight
組織・仕組み化

管理会計の導入:部門別採算と権限委譲

現場リーダーにPL責任を持たせ、経営者意識を植え付ける。

編集部編集部
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Executive Summary

  • 結論1:財務会計とは別に、意思決定のための「管理会計」が必要
  • 結論2:粗利ではなく「貢献利益」で評価しなければ、コスト意識は育たない
  • 結論3:配賦ルールの公平性が、制度の納得感と組織の命運を分ける

社員数が15名を超え、部門(チーム)が分かれ始めた頃(Stage-3)、多くの経営者が直面する深刻な悩みがあります。 「リーダーに任せたはずなのに、利益への意識が驚くほど低い」 「『人が足りないから採用してくれ』と簡単に言うが、そのコストに見合う利益が出せるのか考えていない」

これは個人の資質の問題ではありません。「彼らが見ている景色(数字)」が経営者と決定的に違うことに起因します。 経営者は全社のPL(損益計算書)を見て「最終利益」を気にしていますが、現場リーダーは「売上目標」しか見ていません。このギャップを埋める唯一のツールが 「管理会計(Managerial Accounting)」 です。 本記事では、現場に経営者意識(Ownership)を植え付け、組織を筋肉質に変える部門別採算制度について解説します。

財務会計だけでは見えない「部門別」の真の利益

まず、経営者が必ず理解しておくべき2つの会計の違いについて整理します。多くの企業は「財務会計」しか持っておらず、これが意思決定を鈍らせる最大の要因です。

項目財務会計 (Financial Accounting)管理会計 (Managerial Accounting)
目的外部報告(税務署・銀行・株主)内部報告(経営者・リーダー)
ルール会社法・税法などで厳格に規定自由(会社の実態に合わせる)
期間1年ごとの決算(月次はあくまで経過)月次・週次・日次で判断
単位全社一括が基本部門別・商品別・顧客別
重視正確性・過去の実績スピード・未来の予測

税理士が作る試算表(財務会計)は、会社全体の成績表にすぎません。 「全社で黒字だからOK」ではなく、「Aチームは利益率40%だが、Bチームは隠れ赤字」という実態を暴き出すのが管理会計の役割です。

Important

Important

経営の解像度を上げる 優秀な経営者は、PLを「因数分解」して見ています。 「売上 - 経費 = 利益」というざっくりした式ではなく、「どのチームが、どの商品を、どれくらいの効率で売ったから、この利益になったのか」を説明できる状態を目指してください。

チームリーダーにPL責任を持たせるための「貢献利益」

人材紹介業の「粗利」の罠と貢献利益

人材紹介業の特性として、売上原価がほぼゼロ(紹介料=粗利)であることが挙げられます。 これが現場のコスト意識を麻痺させます。「売上1,000万円なら、粗利も1,000万円。うちは儲かっている」と錯覚するのです。

経営者意識を持たせるためには、粗利ではなく 「貢献利益(Contribution Margin)」 という指標を導入する必要があります。

貢献利益 = 売上高 - 変動費 - 管理可能固定費

部門別PLの設計図

以下は、人材紹介会社における理想的な部門別PLのフォーマットです。リーダーは「営業利益」ではなく、自らがコントロール可能な「貢献利益」に対して責任を持ちます。

  1. 売上高: チーム全員の成約金額合計(2,000万円)
  2. 変動費: スカウト媒体費、返還金引当(200万円)
  3. 限界利益: 1,800万円(限界利益率 90%)
  4. 直課固定費: メンバー人件費、チーム交通費、交際費(1,000万円)
  5. 貢献利益: 800万円(貢献利益率 40%)←重要指標
  6. 本社配賦: 家賃、管理部門費(300万円)
  7. 営業利益: 500万円
Tip

Tip

「見なし利益目標」の設定 貢献利益の目標値(バー)を設定する際は、以下の基準が一つの目安になります。

適正貢献利益 = チーム総人件費 × 2.5倍 〜 3.0倍

メンバーの給与総額が月400万円のチームなら、貢献利益でその2.5倍の1,000万円を稼いでいなければ、バックオフィス経費を賄って会社全体の黒字を維持することはできません。この基準値を明確に伝え、「給与の3倍稼げ」の意味をロジカルに説明しましょう。

配賦(共通費)のルールが制度の納得感を決める

なぜ「配賦」で揉めるのか

部門別PLを導入すると、必ず起きるのが「本社配賦(アロケーション)」に関する不満です。 「俺たちは狭い部屋で我慢してるのに、なんで家賃をこんなに負担させられるんだ」「人事部は何もしていないのに、管理費が高すぎる」といった声です。 しかし、この議論が起きること自体が、コスト意識が芽生えた証拠(健全なコンフリクト)でもあります。

フェアな配賦基準(ドライバー)の設計

納得感を醸成するためには、論理的で透明性の高いルールが必要です。

  • 地代家賃: 「占有面積比」 または 「人員数比」
    • 広い会議室を頻繁に使うチームが、より多く負担するのは合理的です。「コストがかかるから会議室を解放しよう」というポジティブな提案に繋がります。
  • 管理部門コスト: 「人員数比」
    • 経理や人事の手間は、基本的には社員数に比例します。
    • NG例: 「売上比(稼いでいるチームが多く払う)」にすると、頑張って売上を上げるほど負担金が増える「懲罰課税」になり、モチベーションを下げます。
  • 全社ブランディング費: 「均等割」 または 「売上比」
    • 会社全体の知名度向上による恩恵は、全員が受けているとみなします。
Warning

Warning

計算のための計算に陥らない 配賦計算を精緻にしすぎると、経理担当者の作業工数が膨れ上がります。 「電気代をコンセントの数で割る」ような細かい計算は不要です。「ルールは半年間固定。不公平があれば半年後の改定時に見直す」と割り切り、運用コストを下げることを優先してください。

まず明日やるべきこと:3ステップ導入

Step 1: 勘定科目の色分け 直近の試算表(BS/PL)を印刷し、全ての費用科目を「直課(特定チームに紐づく)」か「共通(全社で共有)」かにマーカーで色分けする。

Step 2: 過去3ヶ月分のシミュレーション 色分けに基づき、Excelで過去3ヶ月分の部門別PLを作成してみる。「エースチームだと思っていたが、実は経費を使いすぎて利益率は低かった」といった真実を可視化する。

Step 3: リーダー会議での「お試し開示」 いきなり評価に反映させるのではなく、「経営分析の一環」としてリーダーにPLを見せ、「どうすれば貢献利益が増えるか?」をディスカッションする。

管理会計は、経営者の頭の中にある「金銭感覚」を形式知化し、組織全体にインストールする最強のOSです。まずはExcel一枚から始めてみましょう。

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