固定費のレバレッジ効果:損益分岐点の再設計
人とオフィスを増やした瞬間に跳ね上がるリスクの制御。
Executive Summary
- 結論1:固定費の増加は「階段状」に起こり、戻ることができない
- 結論2:損益分岐点比率は80%以下を目指さないと、不況で即死する
- 結論3:正社員を増やす前に、徹底的にアウトソース(変動費)する
Stage-2(成長期)に入ると、売上が伸び、キャッシュに余裕が出てきます。 ここで多くの経営者が踏み込むのが 「固定費の増強」 です。 「もっと広いオフィスに移転しよう」「バックオフィス担当を正社員で雇おう」。この前向きな投資は、一歩間違えると会社の息の根を止める凶器になります。
人材紹介業は「在庫リスク」がないビジネスですが、代わりに 「人件費・家賃という巨大な固定費リスク」 を抱えています。 本記事では、固定費を増やしながらも、財務の安全性(ダウンサイドリスク)を確保するための「損益分岐点管理」について解説します。
オフィス拡大・増員が招く「固定費の階段」リスク
固定費はスロープではなく「階段」で増える
売上(変動費)はなだらかに増減しますが、固定費はある日突然、ドカンと増えます。 例えば、オフィス移転。家賃が30万円から100万円になった瞬間、あなたの会社の損益分岐点は跳ね上がります。これを 「固定費の階段」 と呼びます。
| 項目 | 筋肉質な会社(変動費型) | メタボな会社(固定費型) |
|---|---|---|
| オフィス | 必要最低限の広さ、シェアオフィス | 見栄えの良い一等地のビル |
| 事務機能 | オンラインアシスタント(外注) | 正社員の事務スタッフ |
| 集客コスト | 成果報酬型エージェント利用 | 固定の広告宣伝費、CM |
| 不況耐性 | 高い(売上が減ればコストも減る) | 低い(売上が減ってもコストそのまま) |
| 利益率 | 安定して高い | 好調時は凄いが、不調時は赤字転落 |
一度上げた固定費の階段を降りる(オフィス解約、解雇)ことは、上げる時の10倍のエネルギーと痛みを伴います。「調子が良い時ほど、固定費を上げない」が鉄則です。
損益分岐点比率を下げ、不況に強い財務体質を作る
安全圏の計算式
あなたの会社は、売上が何%落ちたら赤字になりますか? これを測る指標が 損益分岐点比率 です。
損益分岐点比率 = 損益分岐点売上高 ÷ 現在の売上高 × 100
例えば、損益分岐点が月800万円で、現在の売上が月1,000万円の場合、比率は 80% です。 これは「売上があと20%(200万円)落ちたら赤字転落する」ことを意味します。
目標値の目安
- 危険水域: 90%以上(少しの売上減で即赤字)
- 標準: 80%(なんとか回っている)
- 優良: 70%以下(売上が3割落ちても黒字を維持できる)
Stage-2の経営者は、売上を増やすことよりも、この比率を70%台に抑えることに執着してください。
Warning
「人さえ採れば売上が上がる」という幻想 固定費の最大要素は人件費です。 「3人採用すれば、売上も3倍になる」という皮算用は必ず外れます。 採用直後の3ヶ月〜6ヶ月は、教育コストがかかり、売上はむしろ下がります。この「死の谷(Jカーブ)」を耐えられるキャッシュがない状態で採用してはいけません。
変動費化できる固定費の仕分けとアウトソース活用
損益分岐点を下げる唯一の方法は、「固定費を変動費に変える」 ことです。 正社員(最重の固定費)でなければできない仕事以外は、全てアウトソース(変動費)化しましょう。
アウトソースすべき業務リスト
- スカウト送信: RPO(採用代行)や在宅ワーカーに委託。1通◯◯円という変動費にする。
- 経理・労務: 専任社員を雇わず、オンラインアシスタントや税理士の記帳代行を使う。
- 日程調整: ツールで自動化するか、秘書サービスを時間単位で契約する。
これらの業務を正社員にやらせている限り、あなたの会社の生産性は上がりません。 「正社員はコア業務(面談・企業開拓)のみに集中する」。この規律が、レバレッジの効いた強い財務体質を作ります。
まず明日やるべきこと:3ステップアクション
Step 1: 現在の「損益分岐点」を計算する 固定費 ÷ (1 - 変動費率)で算出。今月の売上がいくらあればトントンなのかを把握する。
Step 2: 固定費の棚卸し 試算表をチェックし、「毎月必ず出ていくお金(サブスク、顧問料、家賃)」の中で、解約・減額できるものを3つ見つける。
Step 3: 採用計画の再考 「来月採用予定の事務スタッフ」を、オンラインアシスタントに切り替えられないか検討する。
経営者の仕事は、売上を上げることではありません。 「どんな環境変化が起きても、会社を潰さない状態を維持すること」 です。固定費の重さを、誰よりも敏感に感じ取ってください。