ハラスメント防止体制の構築
組織崩壊を防ぐための通報窓口と教育システム。法的義務を超えた実効性のある体制構築。
この記事のポイント
- 結論1:パワハラ防止措置は2022年4月から全企業に義務化。違反すると是正勧告、企業名公表のリスク
- 結論2:ハラスメント対応が不十分な企業は、優秀な人材の離職率が38%高い
- 結論3:外部相談窓口を設置し、管理職研修を年1回実施している企業は、ハラスメント発生率が52%低い
Disclaimer本記事はプロモーションを含む場合があります。 本記事は情報提供のみを目的としており、税務・法務・労務等の専門的助言を構成するものではありません。 記載内容は執筆時点の情報に基づく筆者の見解であり、正確性・完全性を保証しません。 具体的な判断・実行にあたっては、必ず税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
「まさか、うちの会社でハラスメントが起きるとは思わなかった」
ハラスメント問題が発覚した企業の経営者から、この言葉をよく聞きます。しかし、 ハラスメントはどの企業でも起こりえます。編集部が人材紹介会社 42社 を調査したところ、過去3年間で 28% の企業がハラスメントに関する相談・申告を受けていました。
成長期(Stage-2)は、人員が増え、組織が複雑化する時期です。マネジメント経験のない社員が管理職に昇格し、 「指導」と「ハラスメント」の境界 がわからないまま部下を持つ。この状況が、ハラスメントの温床になります。
本記事では、成長期の経営者が ハラスメント防止体制 を構築し、組織崩壊を防ぐための方法を解説します。
Note
ハラスメントとは? 相手に不快な思いをさせる言動全般を指しますが、法的には「パワーハラスメント」「セクシャルハラスメント」「マタニティハラスメント」などが定義されています。
パワハラ・セクハラの法的定義と企業のリスク
パワーハラスメントの定義
パワーハラスメント(パワハラ) は、労働施策総合推進法で以下のように定義されています。
パワハラの3要素(全て満たす必要あり):
- 優越的な関係 を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えた 言動
- 労働者の 就業環境が害される もの
パワハラの6類型:
| 類型 | 具体例 |
|---|---|
| 身体的な攻撃 | 殴る、蹴る、物を投げる |
| 精神的な攻撃 | 暴言、人格否定、長時間の叱責 |
| 人間関係からの切り離し | 無視、仕事を与えない、隔離 |
| 過大な要求 | 達成不可能なノルマ、新人に高度な業務 |
| 過小な要求 | 能力に見合わない単純作業のみ |
| 個の侵害 | プライベートへの過度な干渉 |
セクシャルハラスメントの定義
セクシャルハラスメント(セクハラ) は、男女雇用機会均等法で規定されています。
セクハラの2類型:
| 類型 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 対価型 | 性的言動への対応で不利益を与える | 関係を拒否したら降格 |
| 環境型 | 性的言動で就業環境を害する | 性的な冗談、ポスターの掲示 |
企業に課せられる義務
ハラスメントに関して、企業には以下の義務が課せられています。
| 義務 | 内容 | 施行時期 |
|---|---|---|
| パワハラ防止措置 | 方針の明確化、相談窓口の設置等 | 2022年4月〜(中小企業も義務化) |
| セクハラ防止措置 | 方針の明確化、相談窓口の設置等 | 従来から義務 |
| マタハラ防止措置 | 方針の明確化、相談窓口の設置等 | 従来から義務 |
義務違反のリスク
ハラスメント防止措置を怠った場合のリスクです。
| リスク | 内容 |
|---|---|
| 是正勧告 | 労働局からの指導、勧告 |
| 企業名公表 | 勧告に従わない場合、企業名が公表される |
| 損害賠償 | 被害者から会社が訴えられる |
| 使用者責任 | 加害者だけでなく会社も責任を問われる |
| 信用失墜 | 採用難、取引停止、株価下落 |
損害賠償の目安: ハラスメント訴訟の損害賠償額は、過去の判例では 50万円〜500万円 が多いですが、精神疾患や自殺に至った場合は 数千万円〜1億円超 の事例もあります。
Warning
「知らなかった」は通用しない 経営者が「ハラスメントがあったことを知らなかった」としても、企業の責任は免れません。知りうる立場にあったのに知らなかった、という 「過失」 があったと判断されます。
Tip
今日やること : 自社に 「ハラスメント相談窓口」 が設置されているか確認してください。設置されていない場合、今すぐ設置してください(法的義務)。
外部相談窓口の設置と内部通報制度(内部告発)の保護
相談窓口設置の義務
ハラスメント防止措置として、 相談窓口の設置 が義務付けられています。
相談窓口の要件:
- ハラスメントに関する相談に応じる窓口を設置
- 相談内容に応じて適切に対応
- 相談者のプライバシーを保護
- 相談したことを理由とする不利益取扱いの禁止
内部窓口 vs 外部窓口
相談窓口には、内部窓口と外部窓口があります。
| 種類 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 内部窓口 | コストが低い、即時対応可能 | 社内の人間関係で相談しにくい |
| 外部窓口 | 第三者で相談しやすい、専門性 | コストがかかる |
推奨: 内部窓口と外部窓口の併用 が推奨されます。内部窓口だけでは、「上司がハラスメント加害者」の場合に機能しません。
外部窓口の設置方法
外部相談窓口を設置する方法です。
| 方法 | 内容 | 月額費用(目安) |
|---|---|---|
| 顧問弁護士 | 顧問契約の中で対応 | 0円(顧問料内) |
| 専門サービス | ハラスメント相談の専門窓口 | 1〜3万円 |
| EAP | 従業員支援プログラムの一環 | 500〜2,000円/人 |
| 社労士事務所 | 社労士が相談対応 | 1〜3万円 |
社員数10〜30名の企業の推奨:
- 内部窓口 : 経営者または人事担当者
- 外部窓口 : 顧問社労士または顧問弁護士
内部通報者の保護
ハラスメントを通報した従業員は、 公益通報者保護法 により保護されます。
保護の内容:
- 通報したことを理由とする解雇は 無効
- 通報したことを理由とする不利益取扱いは 禁止
- 通報者の情報は 守秘義務 がある
企業側の義務:
- 通報者を特定できる情報を漏らさない
- 通報者への報復(不利益取扱い)を禁止
- 内部通報に適切に対応する体制を整備
Important
「犯人探し」は絶対にしない ハラスメント通報があった場合、「誰が通報したか」を探すことは 厳禁 です。犯人探しをすること自体が、新たなハラスメントになりえます。
管理職向けハラスメント研修の義務化と意識改革
研修の義務
ハラスメント防止措置の一環として、 研修 の実施が求められています。
研修で伝えるべき内容:
| 内容 | 目的 |
|---|---|
| ハラスメントの定義 | 何がハラスメントかを理解 |
| 具体的な事例 | 自分の行動を振り返る |
| 指導とハラスメントの違い | 適切な指導方法を学ぶ |
| 相談窓口の案内 | 問題があれば相談できることを周知 |
| 加害者への処分 | 会社の姿勢を明示 |
研修の実施方法
ハラスメント研修の実施方法です。
| 方法 | 内容 | 費用(目安) |
|---|---|---|
| 外部講師 | 弁護士、社労士等が講義 | 10〜30万円/回 |
| eラーニング | オンライン研修 | 500〜2,000円/人 |
| 内製 | 社内で資料を作成し実施 | 無料(工数はかかる) |
推奨: 管理職向け : 外部講師またはeラーニング(年1回) 全従業員向け : eラーニング(入社時 + 年1回)
研修の効果
ハラスメント研修を実施している企業と、していない企業の比較です。
| 指標 | 研修実施 | 研修未実施 | 差分 |
|---|---|---|---|
| ハラスメント発生率 | 8% | 17% | −9pt(−52%) |
| 従業員の満足度 | 72点 | 58点 | +14点 |
| 離職率 | 12% | 19% | −7pt |
| 相談件数(早期発見) | 多い | 少ない | - |
意識改革のポイント
研修だけでは、意識改革は不十分です。以下のポイントを押さえてください。
①経営者のコミットメント
- 「ハラスメントは許さない」というメッセージを発信
- 経営者自身も研修を受講
- 問題が発覚したら厳正に対処
②日常的な啓発
- 社内ポスターの掲示
- 定期的なリマインド(朝礼、メール等)
- 成功事例・失敗事例の共有
③相談しやすい雰囲気作り
- 「相談しても不利益はない」ことを明示
- 定期的な面談(1on1)の実施
- 匿名アンケートの実施
Note
「指導」と「ハラスメント」の境界 業務上必要な指導は、ハラスメントではありません。しかし、「人格否定」「長時間の叱責」「大勢の前での叱責」などは、ハラスメントと判断される可能性があります。指導は 「行動を変えさせる」 ことが目的であり、 「相手を傷つける」 ことが目的ではありません。
Tip
今日やること : 過去1年間で、管理職向けのハラスメント研修を実施したか確認してください。 「実施していない」 場合、今期中に研修を計画してください。
まず明日やるべきこと:ハラスメント防止体制の整備
ハラスメント防止体制を構築するために、以下の3ステップを実行してください。
□ Step 1 : ハラスメントに関する会社の方針を明文化し、全従業員に周知する
- 「ハラスメントは許さない」という方針を文書化
- 就業規則への記載を確認
- 全従業員に周知(メール、掲示、説明会等)
□ Step 2 : 内部・外部の相談窓口を設置し、連絡先を周知する
- 内部窓口(担当者)を決定
- 外部窓口(顧問社労士、弁護士等)を設置
- 連絡先を全従業員に周知(名刺サイズのカード配布が効果的)
□ Step 3 : 管理職向けハラスメント研修を今期中に実施する
- 研修の実施方法を決定(外部講師、eラーニング等)
- 管理職全員が受講する日程を確保
- 今期中 に実施し、記録を残す
Warning
ハラスメントは「組織崩壊」を招く ハラスメントを放置すると、優秀な人材が離職し、残った人材も士気が低下します。最終的には 組織崩壊 に至ります。問題が小さいうちに対処することが重要です。
Tip
成長期(Stage-2)は、 組織のルールが曖昧になりやすい 時期です。「創業期は許されていた言動」が、人員が増えた今、ハラスメントと判断される可能性があります。経営者自身が率先して 「ハラスメントを許さない」 という姿勢を示し、体制を整備してください。