セグメント別収益性分析:撤退と集中
稼げない領域をデータで切り捨て、高収益部門へ資源集中する。
この記事のポイント
- 結論1:全体最適に隠れた「赤字垂れ流し部門」を特定する
- 結論2:営業利益率10%未満のセグメントは原則撤退
- 結論3:感情を排した「データに基づく撤退」が組織を救う
Disclaimer本記事はプロモーションを含む場合があります。 本記事は情報提供のみを目的としており、税務・法務・労務等の専門的助言を構成するものではありません。 記載内容は執筆時点の情報に基づく筆者の見解であり、正確性・完全性を保証しません。 具体的な判断・実行にあたっては、必ず税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
Stage-3(組織化・仕組み化期)に入ると、企業は複数の領域(職種、業界、エリア)で事業を展開し始めます。 売上規模は拡大し、一見順調に見えますが、財務データを詳細に分析すると「特定の高収益部門が稼いだ利益を、不採算部門が食いつぶしている」という構造が頻繁に見受けられます。 この状態を放置すると、組織全体の疲弊を招き、優秀な人材(高収益部門のエース)の離職に繋がります。経営者に求められるのは、全方位への拡大ではなく、データに基づいた「勇気ある撤退」と「選択と集中」です。
「売上は上がっているが利益が出ない」構造的要因
「なぜかキャッシュが残らない」。社員数が30名を超えたあたりで、多くの経営者がこの違和感を抱きます。 その原因の多くは、 「悪性売上(Bad Revenue)」 の存在です。手間ばかりかかって利益率が低い案件や、成約難易度が高すぎて決定率が低い職種領域。これらにリソースを割き続けることで、組織全体のROI(投資対効果)が低下しているのです。
どんぶり勘定の経営では、これらも「売上の一部」として肯定的に捉えられます。しかし、管理会計の視点からは「会社を殺す癌」かもしれません。
健全な部門と不健全な部門の比較
以下の表は、A人材紹介会社における2つの事業部の比較です。 売上高だけ見れば「IT部門」の方が貢献しているように見えますが、営業利益レベルでは全く逆の結論が導かれます。
| 項目 | 建設エンジニア部門 | ITエンジニア部門 |
|---|---|---|
| 売上高(粗利) | 8,000万円 | 1億2,000万円 |
| 人員 | 4名 | 10名 |
| 1人当たり粗利 | 2,000万円 | 1,200万円 |
| 広告・スカウト費 | 1,000万円 | 6,000万円(CPA高騰) |
| 部門営業利益 | 4,000万円 | 1,000万円 |
| 営業利益率 | 50% | 8.3% |
このケースでは、一見華やかな「ITエンジニア部門」は、実は利益率8.3%という低収益体質であり、建設部門が稼いだキャッシュを広告費やオフィス代として浪費している構造が浮き彫りになります。
Note
クロス・サブシディ(内部補助)の罠 儲かっている部門の利益で、儲かっていない部門を養う構造のこと。 戦略的な新規事業への投資なら許容されますが、慢性的な赤字部門を「いつか黒字になる」と放置するのは経営の怠慢です。
事業部・職種・クライアント別のPLを作成する
この問題を解決するには、財務会計(税務署のための決算書)ではなく、管理会計(経営判断のための決算書)を導入し、セグメント別のPL(損益計算書)を作成する必要があります。
分析のための3つの切り口
- 職種・業界別 : 「営業職」vs「管理部門」、「IT」vs「建設」など。
- クライアント別 : 大手顧客A社、B社、C社。
- 特定のクライアントの対応に工数を取られすぎて、実は赤字になっているケースも多いです。
- チャネル別 : スカウト経由 vs 媒体応募 vs リファラル。
配賦(Allocation)のルールを決める
セグメント別PLを作る際、最も議論になるのが「共通費(家賃や管理部門の人件費)」の扱いです。 最初は複雑にする必要はありません。以下のシンプルな基準で配賦してください。
- 家賃・光熱費 : 人数割り(Headcount)
- 管理部門コスト : 売上比率割り、または人数割り
これにより、各セグメントが「会社共通のコスト」を負担した上で、どれだけ利益を貢献しているか(貢献利益)が可視化されます。
Important
数字は嘘をつきませんが、数字の作り方(配賦ルール)には政治が絡みます。 ルールは経営者がトップダウンで決め、一度決めたら公平に運用することが重要です。
撤退基準(Exit Rule)の策定とサンクコストの排除
分析の結果、赤字または低収益(営業利益率10%未満)のセグメントが特定されたら、次は決断のアクションです。 ここで邪魔をするのが「サンクコスト(埋没費用)」と「感情」です。「今まで頑張ってくれたメンバーがいるから」「もうすぐ芽が出るかもしれないから」という感情論は、組織全体を危険に晒します。
明確な「撤退ライン」を設ける
議論の余地をなくすために、事前に撤退基準を数値化しておきましょう。
- 営業利益率基準 : 2期連続で営業利益率10%未満なら撤退または縮小。
- 1人当たり粗利基準 : チーム平均が月100万円(年1,200万円)を下回るなら解散。
- 市場性基準 : 当該領域の求人倍率が一定以下に低下したら撤退。
「撤退」ではなく「再配置(Re-allocation)」
「撤退」という言葉はネガティブですが、経営資源の視点では「最適配置」です。 低収益部門のエース人材を高収益部門に異動させれば、その人の1人当たり生産性は即座に向上します。例えば、上記の表の「IT部門」のエースを「建設部門」に異動させれば、本人の給与原資も増え、会社の利益も増えるWin-Winの関係になれる可能性が高いのです。
経営者の仕事は、社員が最も輝ける(=最も付加価値を生める)場所に彼らを配置することです。沈みゆく船に彼らを縛り付けることは、優しさではありません。
Warning
撤退判断を先送りすればするほど、その部門のモチベーションは下がり、負債(赤字)は膨らみます。 「傷が浅いうちに」手術をすることが、結果的に痛み(レイオフなどの悲劇)を最小限にします。
まず明日やるべきこと:3ステップ診断
自社の事業ポートフォリオを点検し、隠れた不採算領域がないか確認しましょう。
□ Step 1 : 部門別・領域別の粗利と直接経費(広告費・人件費)を書き出す * まずは共通費の配賦前(限界利益レベル)でOKです。この時点で赤字なら即撤退対象です。 □ Step 2 : 共通費を簡易的に配賦し、営業利益を算出する * 「人数割り」で家賃などを引いてみます。それでも黒字か確認します。 □ Step 3 : 営業利益率ランキングを作り、下位20%の処遇を決める * 「6ヶ月以内に改善計画を実行し、達成できなければ撤退」という期限付きの最後通告を行います。
Tip
選択と集中(Focus)は、怖さを伴います。売上が一時的に減るからです。 しかし、利益率の高い筋肉質な経営体質になれば、不思議と新しい高収益なチャンスが舞い込んでくるものです。空白を作る勇気を持ちましょう。