暗黙知の形式化:SECIモデルの実践
職人芸をマニュアル(形式知)へ変換するフレームワーク。
Executive Summary
- 結論1:属人化は成長のボトルネックであり、形式知化が必須
- 結論2:SECIモデルで個人のノウハウを組織の資産に変える
- 結論3:マニュアルにできない「空気感」は対話で伝承する
社員数が5名から10名(Stage-2)に増えるフェーズで、必ずぶつかる壁があります。「新人が育たない」「社長やエース社員しか売れない」という悩みです。 これは、業務ノウハウが個人の頭の中にしかない 「暗黙知(Tacit Knowledge)」 の状態のままだからです。
「背中を見て覚えろ」という職人徒弟制度は、少人数なら機能しますが、組織拡大には限界があります。 本記事では、知識創造理論の世界的フレームワークである 「SECI(セキ)モデル」 を人材紹介業に応用し、トップコンサルタントのノウハウを組織全体にインストールする方法を解説します。
「背中を見て覚えろ」が通用しなくなる組織の壁
まず、組織が拡大するにつれて、知識のあり方をどう変えるべきか、その違いを整理します。
| 項目 | 職人型組織(Stage-1) | 知識創造型組織(Stage-2以降) |
|---|---|---|
| 知識の所在 | 個人の頭の中(暗黙知) | 共有サーバー・Wiki(形式知) |
| 育成方法 | OJT・同行・見て盗む | マニュアル・研修・動画学習 |
| 再現性 | 低い(本人しかできない) | 高い(誰でも80点が取れる) |
| リスク | 退職したらノウハウが消滅 | 退職してもノウハウが残る |
| 成長速度 | 足し算(個人の総和) | 掛け算(知の再利用) |
創業初期(〜5名)は、全員が同じテーブルで仕事をし、社長の電話トークが自然と耳に入ってきました。これが最強のOJTでした。 しかし、10名を超えると物理的な距離ができ、社長は経営業務で忙しくなり、新人は放置されがちです。ここで「なんでこんなことも分からないんだ」と嘆くのは間違いです。「教える仕組み」を作っていない経営者の責任です。
Note
ナレッジマネジメントの目的 天才(トップビラー)を作るためではありません。 「凡人でも天才の80%の成果を出せるようにする」 ことが目的です。 全員が80点のパフォーマンスを出せれば、組織全体の売上は劇的に安定します。
トップコンサルタントのノウハウを言語化するSECIモデル
一橋大学の野中郁次郎教授が提唱したSECIモデルは、以下の4つのプロセスを繰り返すことで知識が創造されるとする理論です。人材紹介業の現場では、以下のように実践します。
1. 共同化 (Socialization): 経験の共有
暗黙知 → 暗黙知 まずは新人に、エース社員の面談や商談に同席させます。ここではメモを取らせるだけでなく、「なぜ今の質問をしたのか?」「空気感が変わった瞬間はどこか?」を直後にフィードバックし、五感で得た感覚を共有します。
2. 表出化 (Externalization): マニュアル化
暗黙知 → 形式知 ここが最重要ステップです。同席で得た気づきや、エース社員の無意識の口癖を 「概念(コンセプト)」 や 「図」 に落とし込みます。
- トークスクリプト: 「求職者の本音を引き出す3つのマジックワード」
- NG集: 「信頼を失う一言リスト」
- 事例集: 「年収アップ交渉に成功したロジック全集」
3. 連結化 (Combination): 体系化
形式知 → 形式知 作成したスクリプトに加え、業界知識や法務知識のマニュアルを組み合わせ、体系的な「新人研修プログラム(Onboarding)」を作ります。 Notionなどのナレッジベースに格納し、検索すれば答えが見つかる状態にします。「個人の知恵」が「組織の教科書」に変わる瞬間です。
4. 内面化 (Internalization): 実践・習得
形式知 → 暗黙知 マニュアルを読んだだけでは売れません。形式知を使いながら実際に面談を行い、あるいは徹底的なロールプレイングを行い、再び自分の身体知(スキル)として定着させます。
マニュアル化できない「勘所」を共有する場の設計
「場(Ba)」の重要性
すべての知識をマニュアルにすることは不可能です。特に「候補者の微妙な声色の変化」や「クロージングのタイミング」といった高度な暗黙知は、対話の中でしか伝わりません。 意図的に「雑談」や「事例共有」の場を設けることが有効です。
- 朝会でのGood & New: 1分間で「昨日の成功/失敗」を共有する。
- 月イチの「しくじり先生」: 成約事例だけでなく、失注事例を深堀りし、「どこで間違えたか」を全員で検証する。
Tip
動画(録画)活用のススメ 現代の表出化(Externalization)において、Zoom/Teamsの録画機能は最強のツールです。 エース社員の実際の面談動画をライブラリ化し、「入社1週間はこの動画をすべて見て、良い言い回しを書き出すこと」を新人課題にしてください。社長が1から教える時間を劇的に削減できます。
まず明日やるべきこと:3ステップアクション
□ Step 1: エース社員の「口癖」を書き出す 彼らがクロージングの時によく使うフレーズや、候補者の不安を解消する時の決まり文句を3つ書き出し、チャットで共有する。
□ Step 2: Zoomの録画設定をONにする 全ての面談を自動録画する設定にし、クラウドに保存し始める(これだけで資産化の第一歩です)。
□ Step 3: 定期的な「知の共有会」をスケジュールする 週に1回30分、数字の報告ではなく「今週得た学び」だけを話すミーティングを設定する。
知識経営とは、個人の天才性に依存するのではなく、「組織として賢くなる仕組み」 を作ることです。SECIモデルを回し続け、組織のIQを高めていきましょう。