ミドルマネジメントの機能不全と解決策
名選手が名監督になれない理由と、その構造的解決。
Executive Summary
- 結論1:優秀なプレイヤーほど「任せられない」病にかかる
- 結論2:マネジメントとは「他者を通じて成果を出す」技術
- 結論3:評価制度を分け、管理職を「罰ゲーム」にしない
Stage-3(組織化)の最大の鬼門、それは 「ミドルマネジメント(中間管理職)の崩壊」 です。 社長は「彼ならできる」と信じてエース社員をマネージャーに昇格させますが、半年後には以下の悲劇が起こります。
- チームの売上が下がる。
- 部下が育たず、離職が増える。
- マネージャー本人が疲弊し、プレイヤーに戻りたがる。
これは個人の能力不足ではなく、「プレイヤーとマネージャーは全く別の競技である」 という事実を、組織として認識していない構造的な問題です。 本記事では、なぜ名選手が名監督になれないのか、そのメカニズムと解決策を解説します。
プレイヤーとマネージャーの決定的な違い
まず、プレイヤーとマネージャーで、求められる役割と評価基準がどう変わるのかを明確にします。多くの失敗は、この「ルールの変更」を本人に伝えていないことから始まります。
| 項目 | プレイヤー (Player) | マネージャー (Manager) |
|---|---|---|
| 主な業務 | 顧客との対話、成約 | 部下の育成、環境整備 |
| 時間の使い方 | 自分のために使う | 他人のために使う |
| 成果の定義 | 自分の売上目標達成 | チーム目標達成、部下の成長 |
| 必要な快感 | 自分が褒められること | 部下が褒められること |
| 評価ウェイト | 売上 100% | チーム成果 60% : 育成 40% |
| 口癖 | 「私がやります」 | 「君はどう思う?」 |
エース社員は「自分が褒められること」がガソリンで走ってきました。しかしマネージャーになった瞬間、その供給がストップします。 「部下が成果を出しても、褒められるのは部下だけ」。この寂しさに耐えきれず、つい自分で電話をかけて売上を作りに行ってしまう。これが「プレイングマネージャーの罠」です。
Note
他者を通じて成果を出す技術 Googleのマネジメント研究(Project Oxygen)でも明らかな通り、優れたマネージャーの条件は「個人のスキル」ではなく「コーチング能力」や「部下のキャリア支援」です。 武器(自分の営業力)を一旦置き、言葉だけで人を動かす。このパラダイムシフトが必要です。
優秀なプレイヤーがマネジメントで潰れる構造的要因
JD(職務定義書)の欠如
多くの会社で、マネージャーの仕事は「これまでの仕事 + 部下の面倒」という曖昧な定義になっています。これでは物理的に時間が足りません。 マネージャーに昇格させるなら、以下の決断が必要です。
- 個人の売上目標(ノルマ)はゼロにする
- または、個人の目標を半分以下にし、部下育成の時間を週20時間確保する
「プレイングマネージャー」というのは聞こえはいいですが、実際は「人件費予算をケチるための言い訳」になりがちです。
「管理職の罰ゲーム化」
評価制度も問題です。「自分の数字」で評価されてきた人間が、急に「チームの数字」や「育成プロセス」で評価されるようになると、戸惑います。 さらに、給与が変わらないのに責任だけ増え、残業代も出なくなるなら、誰もマネージャーになりたがりません。 マネージャー手当を十分に厚くし、「マネージャーになることが名誉であり、メリットがある」状態を作らなければ、組織は空洞化します。
マネージャーの機能不全を防ぐ3つの処方箋
1. 「スペシャリスト」と「マネジメント」の複線型キャリア
全員をマネージャーにする必要はありません。 「生涯現役で売りたい」「部下の面倒を見るより、顧客と向き合いたい」という人には、部長と同等の給与が得られる 「トップエグゼクティブ・コンサルタント」 等の職位を用意しましょう。 無理に管理職にして才能を潰す必要はありません。
2. マネージャーの評価指標(KPI)を変える
マネージャーの評価シートは、プレイヤーとは別物を用意してください。
- チーム目標達成率 (60%)
- 人材輩出数 (20%): 新人がいつ独り立ちしたか、誰を次のリーダーに育てたか。
- 定着率・ES (10%): 離職を防ぎ、エンゲージメントを高めたか。
- ナレッジ共有 (10%): 自分だけのノウハウを形式知化したか。
3. マネジメント研修への投資
「明日から部長ね」と辞令を出すだけで、マネジメントができるようになるわけがありません。 外部のマネジメント研修への派遣や、週1回の社長との1on1(メンタリング)を行い、OSの書き換えを支援する時間的・金銭的投資が不可欠です。
Warning
No.2のボトルネック化 あなたの会社のNo.2や幹部が「プレイヤーとしては優秀だけど、部下がついてこない(パワハラ気質やマイクロマネジメント)」タイプなら要注意です。 彼らが上にいる限り、次世代の若手は育たず、組織は永遠に拡大しません。勇気を持って役割を変更(ソロプレイヤー化)するか、降格させる決断も時には必要です。
まず明日やるべきこと:3ステップアクション
□ Step 1: マネージャーの「個人目標」を見直す 彼らが「自分の数字」を作るために走り回っていないか確認し、育成に使える時間を強制的に空ける(目標を下げる)。
□ Step 2: 「任せる」勇気を持つ マネージャーに対し、「部下が失敗する権利」を奪わないよう伝える。失敗もまた、学習のための投資であると定義する。
□ Step 3: 役職定義(JD)を文書化する 「部長は何をする人で、何をしない人か」。期待値を明文化し、握り合う。
組織の壁(30人の壁、50人の壁)を突破できるかどうかは、経営者が「名選手」を無理やり監督にするのではなく、「監督業」という新しい職種 として定義し直せるかにかかっています。